名古屋家庭裁判所 昭和49年(少)531号 決定 1974年3月18日
少年 K・H(昭三一・一・一生)
主文
1 少年を特別少年院に送致する。
2 当庁昭和四七年少第八三四号、同第九〇八号窃盗・道路交通法違反保護事件において昭和四七年三月二五日なした少年を中等少年院に送致する旨の決定を取り消す。
理由
(非行事実および適用法令)
少年は、
第1(1) 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四九年一月一二日午後六時頃、愛知県○○郡○○町○○○○地内○○グリーン道路上において普通乗用自動車(名古屋××○××××号)を運転し(道路交通法六四条、一一八条一項一号)、
(2) 前同日時頃前同場所において、少年運転車両の前方を走行していた○木○治(当二一年)運転にかかる普通乗用自動車を少年が追い越したことから同人と喧嘩となり、同人の下腹部を左足で二回位蹴りあげ、もつて同人に暴行を加え(刑法二〇八条)、
第2(1) 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四九年一月一三日午後五時二〇分頃、愛知県○○郡○○町○○○○××番地先道路上において普通乗用自動車(名古屋××○××××号)を運転し(道路交通法六四条、一一八条一項一号)、
(2) 前同日時頃前同場所において、○神○久(当二七年)と○川○子(当二五年)の両名が人通りのない山道たる同所において普通乗用自動車を停車させて車内で談話中であるのを認めるや同人らから金員を喝取することを企て、同人らに対し「金を二~三、〇〇〇円出せ、俺とやるか、三、〇〇〇円貸せ」等と申し向けて金員の交付を要求し、もしこの要求に応じなければいかなる危害をも加えかねない気勢を示して同人らを脅迫し、よつて畏怖した○神○久から即時同所において現金二、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し(刑法二四九条)、
第3(1) 昭和四九年二月二〇日午前一時頃、愛知県○○郡○○町○○○○××××番地○○公園駐車場内工事現場において、○藤○雄が同所に駐車して保管中の普通貨物自動車一台(名古屋××○×××号)を窃取し(刑法二三五条)、
(2) 前同日午前五時頃、愛知県豊田市○○町○○×××番の×○○石油株式会社○○インター給油所において、同給油所責任者○藤○宏管理にかかる現金約三万円、カーステレオその他の商品等六二〇点(但し、その品目は、昭和四九年少第五三一号窃盗保護事件記録に編綴されている昭和四九年三月一日付司法警察員関係書類追送書第八丁以下の領置調書謄本および同第二二丁の領置調書記載の各物品と同一であるのでこれを引用する。)および普通貨物自動車一台(名古屋××○××××号)を窃取し(刑法二三五条)、
(3) 公安委員会の運転免許を受けないで、前同日午後九時二五分頃、名古屋市○○区○○町○○○××番地付近道路上において普通貨物自動車(名古屋××○××××号)を運転し(道路交通法六四条、一一八条一項一号)、
(4) 前同日時頃前同場所において、警察官らの追跡を逃れようとして、法定の制限速度たる毎時六〇キロメートルを毎時五五キロメートル超過する毎時一一五キロメートルの速度で上記自動車を運転し(道路交通法二二条一項、一一八条一項二号)、
たものである。
(処遇)
1 少年は当庁昭和四七年少第八三四号、同第九〇八号窃盗・道路交通法違反保護事件において昭和四七年三月二五日中等少年院送致決定を受け、瀬戸少年院に収容されて矯正教育を経て、昭和四八年四月二三日同少年院を仮退院して後は名古屋保護観察所の保護観察による指導下にあつて現在に至つているものである。
2 (1) 少年は昭和四六年三月○○中学校を卒業直後の時期以降暴力団○○一家○○組に関係してきたものであつて、すでに前記中等少年院送致決定時にはこの点も示摘され、仮退院に際しての特別遵守事項にも特に一項を設けて「組関係者とは絶縁し、誘われても近づかないこと」と定められていたのであるが、仮退院後約二ヶ月程は○○建設にトラック運転手として稼働したもののその中で次第に組関係者との接触を深めて、ついに昭和四八年六月末頃以降は再び○○一家関係の事務所や喫茶店等の手伝いをして生活を送るようになり、同年九月には左肩から左上肢一面にかけて文身を施すまでに至つた。そして、同月頃には、組関係の仕事をするには車がないと不便であるとして、母名義で普通乗用自動車(名古屋××○××××号)を購入して専ら自己の用にこれを供して、以降常習的に無免許運転に従事するようになつた。(上記第1(1)および第2(1)記載の各非行はその一環である。)
(2) さいわいにして少年は、その後他の組員らとの折り合いが悪化してきたことから、昭和四八年一〇月八日には組長に対して脱退の誓約書を差し入れて○○一家との関係を一応断つことになつたのであるが、長期にわたる組関係者との関係の中で培われてきた生活態度、規範意識の欠如等の事情は一朝一夕に払拭しきれるものではなく、少年は、或る程度の更生の意欲を持ちながらもこれを十分に具体化することもできないまま、なお不安定な生活を継続することになつた。このような中で少年は昭和四八年一二月二四日頃からは従前からの顔見識りたる愛知県○○町喫茶店「○○○」経営○井○方に、更生することを誓つてバーテンとして通勤稼働していたのであるが、自動車運転中の些細なことから喧嘩に発展してしまつた本件第1(2)記載の非行(この点については、相手方○木○治にも少年と同等程度の責が帰せられるものと思料される。)により警察の取調を受けるに至つたことから同喫茶店を即日解雇され、苛々した気持を有する中で中学校時代の同級生たる○嶺○、○野○郎(両名とも暴力団等の犯罪・非行集団に加入しているものではない。)を自分の自動車に同乗させてスケートに行く途中、たまたま○神らの自動車を認めたことから、同人らをからかいいやがらせるとともに○川○子の面前で○神○久の面子を失わせることによつて快感を求めるというその場での気持のままに本件第2(2)記載の非行を敢行するに至つたのである。
(3) 少年は本件第2記載の非行により昭和四九年一月二一日通常逮捕され、当庁岡崎支部において同月二三日観護措置決定を受け、身柄を拘束されたまま同年二月一二日の当庁岡崎支部の審判を迎えたのであるが、なお多くの不安定要因が残るものの、非行自体が計画的なものではなく多分に機会性の強いものであること、暴力団○○一家との関係も断たれており少年なりに更生の意欲を示しはじめている等の事情を考慮して、少年を試験観察(在宅)に付したものである。
(4) ところが少年は、昭和四八年一二月頃より交際していた○佐○子(当一九年)が、同女は少年にとつて少年の気持を十分に理解してくれたうえ少年を包容して心の支えにもなつてくれるばかりか将来結婚することをも約してくれた女性であつた(勿論これは少年の抱いていた○佐○子像であつて、それが真実に合致するものか否かはここでの問題ではない。)にもかかわらず、鑑別所を釈放されて出てきた少年に対しいろいろと口実を設けては少年を避ける素振りを示したという事実を冷静に受けとめることができず、急激にボンド吸引に現実逃避の場を求め、上記審判日の翌日から本件第3記載の各非行当日に至るまでの約一週間の期間中にボンド約四〇乃至五〇本(一本当り二〇乃至三〇C・C)を連続的に吸引するという中で、自己抑制力は急速に低下し、精神面および行動面における興奮性は極度に昂進し、これが急性の有機溶済中毒下の幻覚妄想的現実認知と結びついて本件第3記載の各非行を敢行するに至つてしまつた。
3 (1) ところで少年は、アルコール中毒で生活能力を有しない父(昭和四〇年九月結核、腸閉塞で死亡)と生活に追われて少年の基本的躾にすら心を配り得る余裕を持ち得なかつた母の許で幼少期を送つたことをひとつの要因として、自己のわがままに発する諸種の欲求をそのおもむくままに無理をしてでも押し通し、どうしてもそれが容れられない場合にはボンド吸引、家出等に逃避してしまうという行動傾向において顕著に認められる自我の発達の遅れた人格的にも未熟な性格特性を形成してきたのであるが、これが中学校三年生在学中頃までの時期の各種非行という形で顕現するに至つても、少年の監護者たるべき母においてはなおこれに対して何らの適切な教育的配慮を加えることができないままに基本的にはかかる少年の諸行為を放任してしまい、いよいよ少年は上述のような未熟な人格的発展段階を脱却しえないままこれを固着化させていくことになつた。少年が中学卒業後の時期にさしたる抵抗もなく暴力団の中に入つていけたのも、少年のこのような幼稚ないし未熟な性格特性からくる行動傾向をそれなりに容認し、人格的にも未熟な少年をそのありのままに受容するという暴力団に独特の雰囲気が少年をひきつけたものと理解されるのである。
(2) 少年のこの性格特性ないし行動傾向は瀬戸少年院における矯正教育を経ても基本的な変容を蒙ることなく維持され、同少年院仮退院後は数ヶ月を経ずしてまたも暴力団との結び付きを復活することに連らなつてしまつた。そして、少年が少年なりに更生の道を歩もうと思いはじめた昭和四八年一〇月以降においても、少年自身において上述のような自己の性格特性ないし行動傾向上の問題点の自覚を有していなかつたがために、些細なことから情緒的不安定を昂進させて欲求のおもむくままに非行に走りまたボンド吸引等に現実場面からの逃避を図るといつた行動に出てしまうことを、自らの力で未然に防止するための適切な措置をとり得ないでいたものと思料される。
(3) なおこの点に関して付言すれば、前記瀬戸少年院仮退院後本件各非行に至るまでの間少年に対して少年の性格的特性を十分に理解したうえでの適切な指導および監護が加えられてこなかつたことは、少年にとつて極めて不幸なことであつたと言わざるを得ない。常に少年と接触を保ち得る立場にあつたはずの少年の母は、少年の心情を十分に理解することのうえにたつた適切な指導を加えていくだけの監護能力を期待しえない状態にあつたばかりか、保護観察による指導も組関係者との絶縁という特別遵守事項が定められていたにもかかわらず、少年が暴力団○○一家との関係を復活させたという実情についても、従つてまたそのように立ち至るについての少年の心情についても適格な把握をなしえずに経過してしまつたのであつて、保護司との間に毎月一乃至三回の接触が保たれ格段の問題行動も起こしていないということに安心して、昭和四八年一〇月という、少年が少年なりに更生しようという意欲を持つに至り、従つて、それを真に有効なものたらしめるためには少年が専門家による具体的かつ緻密な指導をもつとも必要としていた時期に、A分類からB分類に分類変更されるという実情にあつたのである。
4 (1) 少年は、現在、非行一般について「今後私がまた間違いを起せば、姉の結婚、弟の進学にもますます影響するので、今後このようなことにならないよう真面目な生活をしていきたいと思います。具体的には社会に出たら一定の職を見付け手に職をつけることで、そうすることは自分自身のためにもなるし、ひいては家族のためにもなると思います」(審判廷における供述)と述べているとおり、一定の更生の意欲を有しており、このことは前記暴力団脱退後の生活の変化においても或る程度まで裏付けられているのではあるが、少年が、各種非行という形で自らの行動を発現させてしまう自己の性格特性についてのそれなりの自覚を有していないために、その更生の決意も、具体的に今後予想される各種の困難場面に対する対処の姿勢等についての冷静な自覚を伴つたものとはなつておらず、しばしば決意だけが宙に浮いているような空疎な響きを帯びざるを得ないのである。加えて、少年の性格偏奇は社会的基準からみて相当大幅なものであるため容易に周囲のものから承認されることなく少年の情緒が急激に不安定となるような場面は日常生活上のあらゆる場面に散見されるばかりか、幼児期よりの基本的躾の欠如と長期の暴力団関係者との交際という事情によつて少年には基本的な社会規範意識も希薄であるため、在宅指導をもつて現在の少年の指導をなそうとすれば、少年が諸種の要求のままに再びこれを非行に直結し、またはボンド吸引等の中に欲求をかなえられなかつた現実からの逃避を求めるという事態が今後も継続して成起するであろうことが現実の問題として予見されるのであつて、このことは少年が自己の問題点を自覚して自立的に更生の道を歩めるように指導していくうえで徒らに混乱を持ち込み、その解決を大きく妨げることになるものと思料される。
(2) 従つて、真に少年の更生を図るためには、少年が実社会における生活において大きく情緒的不安定を生じることなく一応適応できるだけの準備を整えさせることを目標として、少年を少年院に収容して矯正教育を施す必要が認められるのであるが、そこにおいては、単に生活指導等を通じて社会的規範意識を身につけさせるというにとどまらず、少年の自我が極めて未熟な発展段階にとどまつていることに鑑み、少年の有している各種の要求ないし欲求をあるがままのものとして十分に理解し認めたうえで少年がこれを正しく実現していけるように援助していく必要性が大きいものといわねばならない。各種の要求ないし欲求をいわば幼児が周囲のものの意を介することもなくだだをこねて実現しこれがいれられないと泣き喚くという類の次元において実現を図つているとも評し得る現在の少年の発展段階を一歩一歩脱却させるべく、これらの欲求を社会的つながりのある集団の中で正しく実現しまた適切に規制していく過程を繰り返し学習させていくことによつてのみ少年の自我の発展は図られるものと思料される。院内秩序を大幅に乱し、または、少年自身が挫折感にひしがれて立ち直りが困難となるような問題行動になるようなことに対してはこれを未然に防止すべく周到な配慮が払わるべきではあるが、上記の学習過程に通常伴なう程度の失敗ないし問題行動は、特に少年の場合、好個の学習素材となるものと考えられるので、少年の側で問題行動を起こさずに過ごそうというような態度を示しているような場合には、逆に少年の問題を行動に発現させるべく働きかけるという位の意気込みで指導がなされることが望まれるのである。このようにして実社会に向けて出院するための矯正教育が十分になされたとしても、出院後なお相当期間にわたつて専門家による緻密な指導が在宅処遇として少年に対し加えられる必要性が大きいことはいうまでもない。
(3) 少年の年齢、非行前歴、非行性の程度、予想される矯正教育の困難性その他諸般の事情を考慮すれば、少年に対する上記矯正教育は特別少年院においてなされることが相当と認められるので、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文第一項のとおり、また、継続中の前件保護処分の取り消しにつき少年法二七条二項を適用して主文第二項のとおり決定する。
(裁判官 八田秀夫)
昭和四九年少第五三一号、同第五九六号、同第六八九号、同第八八八号窃盗等保護事件
少年の家庭環境の調整に関する件
少年 K・H 昭和三一年一月一日生
本籍 愛知県○○郡○○町○○○○××××番地
住所 愛知県○○郡○○町○○○○××××番地
上記少年は、別添決定謄本のとおり、昭和四九三月一八日当庁において特別少年院送致決定を受け、現在愛知少年院収容中のものでありますが、少年院における矯正教育を円滑に進行させるためのみならず、同決定理由にも記載したとおり、少年の更生にとつて少年院における矯正教育に引き続くべき在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思料されますので、この在宅処遇が成功裡になされることを保障する条件を今から準備すべく、少年の家庭環境の調整に関し下記のとおりの措置を行なわれるよう、少年法二四条二項、少年審判規則三九条に則り要請いたします。
名古屋保護観察所長殿
昭和四九年四月五日
名古屋家庭裁判所
裁判官 八田秀夫
記
第一行なわるべき環境調整の措置
名古屋保護観察所長は、少年の家庭環境の調整に関し特に次の措置を行なうこと。少年の保護者たる母K・K子(昭和三年一一月二七日生、本籍および住所は少年のそれに同じ。)に対し、愛知少年院とも連絡を密にしたうえ
1 可能な限り頻繁に少年との面会におもむいて、少年を励ますことができるように指導すること。
2 少年の心情を理情を理解できるように指導すること。
3 母の心情を少年に対して伝えられるように指導すること。
第二上記措置とする必要とする理由
上記の措置が現在の時点から措られることが必要と考えられる所以は、別添特別少年院送致決定理由中に記載されていることのほか、以下のとおりである
(1) 少年は長期にわたる暴力団との関係の継続等の事情から不良顕示性の極めて強い行動傾向を固着化させてきているが、このことは逆にいえば、不良性顕示とかボンド吸引等の逃避行為の中にしか自己の感情を発散させることができないという、幼稚で、弧独で、独力では困難に立ち向かっていくことのできない弱い性格が基本に存することを示していると思料される。そして、少年の従来の各種非行をうみ出してきた基盤たる生活全般の乱れについてみても、監護者たる母においてこれを放任し、具体的かつ適切な指導を加ええなかったことから基本的には容認されてきてしまつたことを幸いとして、そのような母の監護態度に対する甘えのうえにたつたものと理解され、少年は依然として家庭に対する依存感情を色濃く残存させている。
(2) 少年は審判廷において特別少年院には送致してもらいたくない旨を、自己の更生意欲の強さ、少年院に行かないでも立ち直つているものは多数いる等の理由をあげて縷々陳述していたのであるが、このことの中にも、自己の問題点の克服に真正面から立ち向かつて取り組んでいくという困難のまえにひるんでしまう少年の弱い性格が覗われるのであつて、このような少年にとつて、少年院における矯正教育が真に効果を発揮しうることを保障するものは、少年自身がなお強い依存欲求ないし承認欲求を抱いている母から絶えず励まされ、母においても少年を見捨てることなく少年の苦労を常時考えていてくれるという実感を、少年が少年院収容期間中継続して保持していくことにあると思料されるのである。
(3) また、少年に対する少年院出院後の在宅処遇段階が有効に施行されるためには、少年が少年院出院後の時期に家庭に定着し、あるいは住込みで稼働するにしても家庭との間に精神的ないし心情的つながりを持ちつつ職場に定着することが、出院までの間に特段の事情の変化のない限り、不可欠の前提となるものと思料されるのであるが、このためには、少年と母との間に今まで十分具体化されてこなかつた心情的交流が強められ、少年自身のうちに「いつまでもフラフラしていてはいけない、母にこれ以上迷惑をかけたくない」という気持が母の旧来の苦労に対する理解に裏付けられて定着するとともに、母の気持の中にも「今まで少年のことをしつかりと考えてやれなかつたし、十分のことをしてやれなかつた」という反省の念が、少年の苦しみに対する理解を伴つて具体化されて、少年と母がお互いの心情を理解しあえるようになることが重要な意義を有するものと認められる。特に、母の具体的事実に基づいた反省の気持が、少年のためにいろいろと配慮しようとしてもどうしようもなかつたとも考えられる女手ひとつで子供らを育てあげていく生活上の生々しい苦労の数々とともに少年に伝えられるようになれば、少年の更生にとつてもつとも望ましい母子間の関係が芽生えてくることにもなるものと考えられる。付言すれば、かかる母子間の関係が芽生え始める期時が早ければ早いほど、少年院における矯正教育もそれだけ一層所期の目的効果をあげ得ることになろう。
よつて、上記第一記載のとおり家庭環境の調査に関する措置を行なうことを要請するものであるが、現時点において措らるべきこの措置には、未まだ母において少年の問題点を理解しその個々につき適切な指導方法をとれるように指導することまでの趣旨を含むものではない。現在もつとも必要とされているのは、少年と母との間が、いわば感性的次元において十分に緊密な紐帯で結び付けられるように側面から種々の援助および指導を与えることであるというのが、本件環境調整に関する措置全体を通じての趣旨である。
第三添付資料 (編略)